漆かぶれの治し方は?金継ぎでかぶれる理由と注意点まとめ
金継ぎの材料として使われる漆ですが、肌に直接触れるとかぶれてしまうリスクがあります。
しかし、万全に備えていてもうっかり手についてしまう可能性もあるので、万が一に備えて漆かぶれの治し方を知っておきましょう。
漆かぶれの治し方は?
かゆくてたまらない漆かぶれは早く治したいところですが、治療法や薬などはあるのでしょうか?
皮膚科医に相談する
漆によるかぶれが発生したら、まずは皮膚科医に相談しましょう。自己判断は悪化の原因にもなるので、かゆみが出てきたらすぐに専門家の判断を仰ぐことが大切です。
私も一番最初に漆かぶれが起きた時は「ただの虫刺されだろ」と思って放置していたのですが、そこから全身に発疹が広がるほどに悪化した経験があります。
「内科じゃダメなの?」と思う人もいるかもしれませんが、漆によるかぶれはよくある症状ではないので、皮膚科以外の医師の場合対応に困る可能性があります。
漆かぶれは皮膚症状が主なので、皮膚のことは皮膚の専門医師に見てもらう方が確実でしょう。
漆かぶれを早く治す薬はない
結論から言うと、漆かぶれを治す専用の薬は存在しません。市販に限らず、皮膚科などの病院でも処方はしてもらえないので注意しましょう。
ただし、かゆみを抑える薬はあります。ステロイドや抗ヒスタミン薬などはかゆみや炎症を抑える効果を持ち、強いステロイド薬は皮膚科で処方箋をもらわないと購入できないので、どちらにしろまずは皮膚科で見てもらうことが早期回復の近道です。
私はかゆみ止めの薬として『オロパタジン』を処方されています。
漆かぶれが治るまでの期間
皮膚科で診察してもらうと、ステロイド薬や抗ヒスタミン薬の塗り薬を処方されて様子をみるように指示されます。
完治にかかる期間は人によって差が出ます。塗ってから2~3日でかゆみが引く場合もあれば、1週間以上かかる場合も珍しくありません。
医師の指示に従って、患部に余計な刺激を与えないように、忘れずに薬を塗るようにしましょう。ちなみに漆かぶれは人に感染することはないので、慌てず治すことに専念してください。
時間がたつと自然治癒する
薬でかゆみや炎症を抑えれば、時間経過とともに漆かぶれは自然治癒します。跡なども残らない場合がほとんどです。
また、何回か漆かぶれを繰り返すうちに耐性ができてかぶれにくい体質になる人もいます。皆が皆そうなるとは限らないので、漆に触れるときは必ず手袋を装着するなどの対策をしましょう。
(私は漆を13年ほど触っていますが、いまだにかぶれます…)
民間療法もある
漆かぶれに対する治療法のなかには、民間療法として伝わるものもあります。
一見変わった治療法が多くあり、漆を触る者のバイブルである、松田 権六先生の『うるしの話』にはこう書いてあります。
かぶれの治療法としては前記の沢蟹の汁がいちばん利くが、その他に海水、硼酸、杉の薬なども役に立つだろう。
うるしの話
チャレンジ精神が旺盛な私ですが、さすがにこのあたりは試したことがありません(笑)
地域によってさまざまな漆かぶれに対する工夫が見られますが、民間療法は医学的根拠のない治療法なので、我慢できない程のかゆみなら早めの皮膚科受診がおすすめです。
漆がかぶれる理由ってなに?
そもそも、なぜ漆が肌に触れるとかぶれてしまうのでしょうか?その理由についてみていきましょう。
漆に含まれるウルシオール
漆かぶれは漆に含まれるウルシオールと呼ばれる成分が原因の、アレルギー性接触性皮膚炎です。症状は強いかゆみのほかに、赤いむくみや水疱を生じる場合もあります。
ウルシオールは漆の主成分であり、質のよい漆ほどウルシオールは豊富に含まれているので、上質な漆を使った金継ぎをしようとすればそれだけ漆かぶれのリスクが高くなるといってもよいでしょう。
肌に触れると厄介な漆ですが、このウルシオールの酸化反応によって漆が固まるので、接着剤として使用するうえでウルシオールは重要な役割を持ちます。
乾いた漆はかぶれない
「漆でかぶれるなら、漆器などを触るとかぶれてしまうのでは?」と疑問に思う人も少なくありません。
しかし、乾いた状態の漆に触れてかぶれることはありません。漆かぶれが生じるのは、乾く前の漆だけです。
ただし、肌が弱い人の場合、十分に硬化されていない漆器に触れてかぶれることもあります。
汗と反応してかぶれやすくなる?
所説あるようですが、汗と反応してかぶれやすくなることもあるようです。
私の実体験ですが、漢方薬の五苓散とボトックス注射で漆かぶれが改善しました。
(あくまで個人の感想です)
五苓散もボトックス注射も、多汗症の治療として処方されるもので、手汗が軽減されたことで漆と反応しづらくなったのかもしれません。
私がボトックス注射を手に打つ時の様子。
漆かぶれの特徴
漆にかぶれた時の症状は、かゆみだけではありません。
気になるのは「肌に痕が残るのかどうか」という点かと思います。
漆かぶれの症状について見ていきましょう。
肌に痕が残らない
漆かぶれが完治すれば、基本的に肌に痕が残ることはありません。ただし、ひどくかきむしるとかきむしり痕が残る場合もあるので注意が必要です。
私の経験として、最初は色素沈着?のように痕があるのですが、その後消えていくのを何度も経験しています。
かゆみがひどくなったら速やかに皮膚科を受診しましょう。
抵抗力がつき徐々に症状が軽くなる
金継ぎを趣味として長く続けている人や職人などのなかには、漆に何度もかぶれるうちに皮膚に耐性がついて徐々に症状が軽くなる場合もあります。
人によっては、多少漆に触れてもかぶれなくなる人もいます。
そもそも、和竿(竹で作る釣竿)を塗る際は、指で漆を塗るくらいですからね…
動画の19:00頃から、作業の工程を観ることができます。
しかし、具体的に「何年何回漆に触れれば耐性がつく」という基準はないので、漆を取り扱うときには手袋をはめたり、漆が触れた可能性のある道具や服などはしっかり洗うなどの対策をしておきましょう。
症状には個人差がある
耐性のつきやすさも個人差ですが、症状の重さや軽さにも個人差があります。ちょっとかゆくなるだけで済む人もいれば、真っ赤にむくんで水疱が出てしまう人も珍しくはありません。
同じく、症状が落ち着くまでの期間にも個人差があり、自然治癒ですぐ治る人もいれば皮膚科で処方された薬を塗っても完治までに1週間以上かかる人もいます。
これも私の勝手な経験則ですが、花粉症の人はかぶれやすいかなという印象です。
周りの先生で花粉症の方はかぶれてる印象ですし、花粉症ではない先生はかぶれづらい印象です。
(何度もですが、個人の感想です)
人によってどのような状態になるかわからないので、金継ぎを趣味として続けていきたい人は、薬を常備しておくか手袋などの漆対策をしっかりしておくことをおすすめします。
漆にかぶれた時の注意点
漆かぶれは人によって症状の重さや完治にかかる時間が異なるので、かぶれたと思ったら悪化しないように注意が必要です。
着用していた衣服も全て洗う
漆で肌がかぶれていることに気づいたら、漆に触れた時に着ていた衣服全てを洗いましょう。
服に漆がついている可能性があり、漆が付着したまま放置しておくと、ほかの服や道具についてしまいます。
室内全体に漆が広まって二次被害の発生にも繋がります。服に限らず漆が触れた可能性のあるものは全てきれいにしましょう。
発疹をかかない
漆かぶれによる発疹が生じたら、かゆくてもかかないようにしましょう。我慢できる程度のかゆみなら我慢し、耐えられない場合は皮膚科の受診がおすすめです。かきむしってしまうと、それだけ漆が肌に広がるので、悪化の原因になります。
また、基本的に漆かぶれは痕が残りませんが、血が出るほどかきむしってしまうと痕が残る場合もあります。痕を残さないためにもかぶれた部分には触れないことが大切です。
漆にかぶれない方法
漆にかぶれたあとの治療法は知っておいて損はないですが、根本的に漆にかぶれなければかゆみなどの症状も出ません。
では、漆にかぶれないようにするためにはどのようにすればよいのでしょうか?ここではその対策についてご紹介します。
漆を使う時は保護をする
漆を使用する時は手袋をつけたり、長袖の服を着用したり、マスクをするなど、直接触れないように保護しましょう。
手袋の使いまわしはせず、使い捨て可能なニトリルの手袋がおすすめです。
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漆を使う時だけでなく、片付けの時も漆を触りやすいので
漆を濾す時は特に注意です。
漆が付いたら油で拭き取る
手袋をはめて万全の状態で臨んでも、うっかり肌に漆が触れてしまう場合もあります。
そんな時は慌てずに油で漆を拭き取りましょう。
サラダ油でも問題ありませんが、油のなかでもおすすめは酸化しにくい菜種油やキャノーラ油です。
アルコールのウェットティッシュを使用すると、逆にかぶれやすくなる可能性があるようです。
油で拭き取ったあとは石鹼でよく洗い流してください。
まとめ
割れた器の修復方法としても便利で、見た目も美しい金継ぎですが、要となる漆は直接触れるとかぶれる場合があります。
かぶれた時の対処法としては、皮膚科で処方してもらうことをおすすめします。
かゆみ止めを塗り続ければそのうち自然治癒し、痕も残らない場合が多いです。
しかし、かぶれないことに越したことはないので、漆を扱う時は手袋をするなどの対策をしましょう。
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