岩手県花巻市は温泉地として、そして宮沢賢治のゆかりの地として有名。
そんな花巻で作られる鍛冶丁焼は、素朴で落ち着いた風合いが魅力的な陶器です。
窯元が少ないため、流通数・知名度ともに低いですが、日常使いに適した雑器が制作されています。
鍛冶丁焼とは?ルーツや歴史を紹介
まきまき花巻
鍛冶丁焼は、岩手県花巻市で焼かれる伝統的な陶器です。
花巻市南部、大谷地で採取した粘土に豊川沢上流の砂利を混ぜ、1年間寝かせて粘りの出た状態で制作が行われます。
鍛冶丁焼のはじまりは、今から200年前に遡ります。
文政年間に、盛岡藩の焼き物師古舘伊織が花巻市鍛冶町に開窯し、鍛冶町焼が作られるようになったのがはじまりです。
その後100年以上鍛冶町焼が作られていましたが、明治に入り本家が廃業、残る分家も太平洋戦争によって4代目が戦死しため、担い手が途絶えてしまいました。
廃窯から4年後、栃木県益子で修行した阿部勝元が、鍛冶町焼の陶法保存再興のために立ち上がります。
1947年に鍛冶町焼再興のため開窯しますが、窯を開いた土地が鍛冶町ではなく石神町だったため、名前を鍛冶丁焼に改めたそうです。
現在は2代目の阿部太成さんが鍛冶丁焼伝統の技を引き継いでいます。
太成さんは、高校卒業と同時に会社勤めをしながら鍛冶丁焼の制作をはじめました。
退職後に工房を石神町から湯口蟹沢に移し、現在も鍛冶丁焼の制作活動を行っています。
鍛冶丁焼の特徴は日常使いしやすさにあり
まきまき花巻
鍛冶丁焼の釉薬は地元の藁や米の籾殻の灰・木灰・長石をもとに作られています。
淡いブルーグリーンや乳白色に発色し、柔らかい風合いが魅力です。
再興前の鍛冶町焼は白の基本釉薬に銅や鉄が配合され、渋い黒や緑の発色が特徴でした。
再興後に阿部勝元が釉薬を改良し、時代に沿った色合いへと変化させました。
ろくろ製法で作られる鍛冶丁焼は、素朴で日常使いしやすい形も特徴です。
元は甕を中心に作られていましたが、時代のニーズや伝統を残すことにフォーカスして、日用雑器を主力に作られるようになりました。
また、阿部勝元は益子で修行したこともあってか、土気の感じられる、重厚でぼってりとした質感も特徴です。
厚手の器が多いので、厚いものをいれても持ったときに厚さを感じづらい、冷たいものは冷たいままの状態を持続できることがメリットです。
現在鍛冶丁焼2代目の太成さんは、つかいやすさを追求し器の大きさや重さ、触り心地を重視して制作しています。
工房には、粘土の風合いを残しながら、つるっとした触り心地のいい器や、釉薬を組み合わせた独特なグラデーションが目を引く亀甲模様の壺まで、幅広い器が並んでいます。
岩手県で作られるのは鍛冶丁焼だけじゃない!小久慈焼・台焼との違いは?
鍛冶丁焼が作られる岩手県では、ほかにもさまざまな陶器が作られています。
その中でもよく比較されるのが、小久慈焼や台焼です。
台焼きは東北では珍しい磁器の器であることが、鍛冶丁焼と大きく異なります。
鍛冶丁焼は土や砂の風合いを感じる焼き物ですが、一方台焼は佐賀有田にルーツがあり、白磁染や辰砂、青磁が特徴的です。
台焼の染付はモチーフとして、太陽や船・海岸線の柵・松描かれることが多いことも特徴。
また、小久慈焼との大きな違いは、器の発色にあります。
久慈の粘土は白色がきれいにでるため、白を基調に釉薬で色付けした焼物が多いですが、鍛冶丁焼は淡いブルーグリーンや乳白色の発色が特徴です。
鍛冶丁焼・小久慈焼・台焼は、地元で長く愛されている焼物です。
結婚式の引きでものや、日常使いの器、飲食店でも採用されるなど、食卓に色どりを添えてくれます。
それぞれの風合いが異なるため、使用するシーンによってつかいわけるといいですね。
はじめての鍛冶焼きはマグカップ・コーヒーカップ・湯呑みがおすすめ
はじめて鍛冶焼きの器を購入する方におすすめなのが、マグカップやコーヒーカップ・湯呑みです。
鍛冶丁焼きはつかいやすさを考えて作られているので、日常的につかえるものを選びましょう。
また、飲み口の広さ・器のデザイン・色の出方など、1点1点が手作りだからこそ少しずつ異なります。
世界に1つだけの自分の器が持てるので、愛着もひとしおです。
ほかにも、ぐい呑みや徳利。ビールジョッキといった酒器や、花瓶・小鉢・茶碗など、日常でつかう器が数多く作られています。
お酒が好きな方には、ビールジョッキがおすすめです。
陶器のビールジョッキは泡立ちがよく、熱伝導率が低いことから、冷たい状態を長くキープできます。
口当たりがよくなるので、いつも飲むビールよりもおいしく感じるかもしれません。
鍛冶丁焼きの窯元・工房では制作体験ができる
鍛冶丁焼の窯元は、岩手県花巻市湯口蟹沢にあります。
先代のつかっていた窯は、岩手県花巻市石神町にありましたが、震災により全壊。
周囲に家屋が多くなったで、窯焚きが難しいとの判断から現在の湯口蟹沢に工房を移しました。
現在の工房は、2代目太成さんが2年かけて先代の窯を改良して完成させています。
土地の傾斜を活かした登り窯は、先代の窯の規模と比べると小さいですが、いくつもの焼成室があります。
新釜で作られる器は表情の変化に富んでいて、釉薬の流れが美しいのも特徴です。
また、工房では制作体験が行われていて、電動ろくろをつかった焼き物制作体験が行えます。
体験は自由度が高く、白・黒・赤茶・桃色・青色のなかから釉薬が選べるほか、作品を焼く・焼かないも選ぶことが出来ます。
陶芸に興味のある方は、ぜひ鍛冶丁焼きの制作体験もチェックしてみてください。
制作体験は、予約サイトじゃらん、直接の電話問い合わせで受け付けています。
予約状況によっては受け付けできないこともあるので、詳細は工房に直接お問い合わせください。
鍛冶丁焼窯元工房
住所:岩手県花巻市湯口蟹沢25-1
電話番号:090-7328-4865
鍛冶丁焼が購入できる場所
鍛冶丁焼に興味を持った、購入したいけど、購入場所がわからない。という方のために、鍛冶丁焼が購入できる場所をご紹介します。
流通数が少ないので、購入できる場所も限られているようです。
確実に手に入れたい場合は、鍛冶丁焼窯元工房に直接足を運んで、焼物を手に取ってみるのがおすすめです。
・鍛冶丁焼窯元工房(岩手県花巻市湯口蟹沢25-1)
・ふるさと納税(岩手県花巻市)
・展示会
・コレパン町田店(東京都町田市原町田6-12-20 小田急百貨店町田店5階)
・コレパン日吉店(神奈川県横浜市港北区日吉2-1-1 日吉東急アベニュー本館2階)
展示会は、花巻やきものまつりなどに出品しているようです。
今回ご紹介する中でインターネットを利用して購入できるのは、ふるさと納税のみとなっています。
在庫状況によっては、商品が購入できない場合もあるので事前に確認をとるようにしてください。
鍛冶丁焼は岩手で再興・復興を遂げた伝統工芸
鍛冶丁焼は戦争で1度途絶えてしまった伝統工芸です。
しかし、陶法保存のため再興し、震災による窯全壊という被害も乗り越えました。
それだけで、多くのドラマがあったことが想像できますね。
伝統工芸というと、少し縁遠く感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、日常につかいやすい工夫が散りばめられた陶器なので、生活の中によく溶け込みます。
お家時間を豊かにしてくれる器が数多く制作されているので、気になる方はぜひ窯元をチェックしてみてください。