金継ぎは、焼き物の修繕方法として広く知られ利用されていますが、どのような器も直せるわけではありません。
素材が金継ぎに向いていないものや、用途を考えると金継ぎで直すことが適切でないものなどがあります。
この記事では、金継ぎのできない器の種類や、本漆で金継ぎをする際の注意点を紹介します。
本漆による金継ぎのできない素材や器は?
本漆で金継ぎのできない理由としては、素材や用途が漆を使って修繕するのに適していないことが挙げられます。
では、具体的にどのような器が金継ぎに向かないのでしょうか。
直火にかけて使用する道具
土鍋や釜といった直火にかけて使用する道具は、基本的に金継ぎで直すことはできません。
器が非常に高温になり、修繕に使用する漆の耐熱温度を超えてしまうためです。
無理に直しても、使用に耐えられず再度破損する可能性が高いでしょう。
ただし、料理を盛る器や飾り物として使い続けたいのであれば修理は可能です。
電子レンジやオーブンで使用する器は注意が必要
電子レンジやオーブンで使用する器は金継ぎで直すことはできますが、再度オーブンや電子レンジで使うことはできません。
前述のとおり高熱に晒されると接合部が破損する可能性が高いためです。
また、金継ぎの仕上げでは金や銀で化粧を施すため、電子レンジで使用すると火花が散ってしまいます。
こちらも接合部のダメージとなるため、耐熱性の容器であっても同じように使い続けることは難しいでしょう。
水に長い間浸す器にも注意しましょう
接合部を水に長期間浸す器も、金継ぎでの修繕は向きません。
漆で接合した部分を長く水に浸けると漆へのダメージとなるためです。
直した箇所が再度破損するリスクがあります。
例えば、花瓶の底や睡蓮鉢などは、本漆金継ぎで直すとそれまで通り使うことは難しくなるでしょう。
ただし、持ち手やフチの欠けなど、水に触れない部分であれば金継ぎできることもあります。
また、花瓶にドライフラワーを挿す、睡蓮鉢を庭のオブジェとして使うといった使用法は問題ありません。
接着剤での修繕に失敗したものは除去してから
自分で接着剤での修繕を試みて失敗した器を金継ぎしたいときは、作業に取りかかれるのは接着剤を除去してからです。
接着剤の種類にもよりますが、多くの場合熱湯で数十分煮込んで拭うか、有機溶剤を使って拭き取ることが有効となります。
ガラス製品の金継ぎは可能だが難度が高い
ガラス製品の本漆での金継ぎは可能ですが、プロの間でも手法が完全には確立しておらず難度が高い方法です。
次項で詳しく紹介します。
ガラス製品の金継ぎはできる?
ガラス製品の金継ぎは、通常の本漆金継ぎとは手法や材料が異なります。
そのため、自分で金継ぎをするには難度が高くなっています。
ガラスの本漆金継ぎの問題点
一般的な陶磁器の金継ぎと比べて、ガラスの本漆金継ぎはさまざまなハードルや問題点があります。
- 断面がつるつるしており漆が接着力を発揮できない
- ガラスに食いつきやすい専用の漆が必要
- 修繕後に断面が透けて見えるため見栄えを整えるのが難しい
- 修繕技術が新しく情報が少ない
初めて本漆金継ぎに挑戦する人であれば、ガラスではなく陶磁器から始めた方がよいでしょう。
自分で直すなら簡易金継ぎするのが無難
前述のとおり、本漆金継ぎによるガラスの修繕はややハードルが高いため、自分で挑戦するのであれば簡易金継ぎで直した方が無難です。
簡易金継ぎとは、人工漆やパテ、接着剤などの人工の素材を使って行う比較的難度の低い修繕のことです。
簡易金継ぎで直すと食器としては使えなくなるものが多いのですが、飾り物にするなど、食品に触れない形で使用するなら選択肢に入ってきます。
簡易金継ぎでガラスを直すときは、使用するパテや接着剤がガラスに使えるかどうかを確認しましょう。
金継ぎ暮らしでは、業界でも珍しい食品衛生法適合材料のみを使った簡易金継ぎキットを用意しています。
食器として使い続けることもできますので、ガラス食器の修繕でお悩みであればこちらも検討してみてください。
修繕依頼が可能かは工房によって異なる
自分で直せない場合は、修繕依頼を受け付けている工房に相談することになります。
しかし、ガラスの金継ぎができるかは工房によって異なります。
修繕を担当する職人が、ガラスの修繕や専用の漆の扱いに慣れていないケースなどは、断られることもあるでしょう。
各金継ぎ工房の、ガラス製品の修繕対応は、おおむね以下のいずれかに分かれます。
- 全面的に修繕を受け入れていない
- 簡易金継ぎでのみ修繕ができる
- 本漆で金継ぎできる
器の状況によってはガラスの金継ぎも受け入れている、という工房もありますので、迷う場合は見積もりから相談してみることをおすすめします。
本漆で金継ぎを行う場合の注意点
金継ぎで本漆を使う場合、簡易金継ぎにはない注意点がいくつかあります。
初めて漆を扱う人はポイントを抑えておきましょう。
漆かぶれに注意する
本漆が皮膚に付着すると「ウルシオール」という成分によってかぶれを引き起こします。
かぶれの程度は人によって異なりますが「常に数匹の蚊に刺されているようなかゆみ」と表現する人もいるほどです。
漆かぶれの予防には、肌の露出を抑えて手袋やアームカバーを着用することが効果的です。
漆が付着したときは、食用油をたらして拭き取り、そのあと石けんで手を洗うとかぶれを最小限にできます。
あまりにも痒みが強い場合やただれてしまった場合は、無理をせず医師の治療を受けてください。
漆の乾燥には湿度が必要
本漆で金継ぎをするのであれば、漆の乾燥は不可欠です。
意外かもしれませんが、漆の乾燥・硬化には一定の湿度が必要となります。
そのため漆の乾燥には「漆風呂」を利用します。
これは内部の湿度を高めた箱のことで、金継ぎや漆芸の必需品です。
初めての人やお試しで金継ぎをしたい人であれば、必ずしも本格的な漆風呂は必要ありません。
濡れタオルを入れた段ボール箱などでも代用できます。
金継ぎする器はしっかりと洗浄する
金継ぎで修繕する器は、事前にしっかりと洗浄してください。
油分やほこりなどの汚れが付着していると、漆の乾燥に影響しますし、修繕後の強度も低くなります。
中性洗剤などで汚れを落とし、内部の水分が完全に抜けきるまで乾燥させます。
磁器は2、3日・陶器の場合は一週間以上乾燥させると確実です。
漆の厚塗りはNG
金継ぎで使用する漆の厚塗りは基本的にNGです。
これは、欠けの埋めに使用する錆漆(さびうるし)や刻苧漆(こくそうるし)をはじめ、金撒きに使う絵漆など、ほとんど全ての漆にいえることです。
厚塗りした漆は非常に乾きにくく、ときには乾燥に2~3週間余分にかかることもあります。
欠けに肉付けするなど厚盛りする必要があるときは、薄く盛ってから乾燥させる手順を複数回繰り返します。
簡易金継ぎでパテを盛るケースなどは一気に肉付けして問題ないため、簡易金継ぎからスタートした人にとっては戸惑いやすいポイントかもしれません。
自分で修繕ができるかはケースバイケース 困ったらプロへの相談も視野に
現在は、初心者向けの金継ぎキットも販売されているなど、誰でも金継ぎを始めやすい環境となっています。
しかし、実際に自宅の器が金継ぎできるかどうかはケースバイケースです。
紹介したように、金継ぎに向かない素材や金継ぎでの修繕が適さない器も多いです。
また、希望によって簡易金継ぎと本漆金継ぎのどちらが適しているかも違います。
「自宅で直していいかわからない」「自分では直せない」という場合は、プロに相談してみることもおすすめです。