本漆による伝統的な金継ぎを始めたい人が、最初に躓きやすいのが漆の種類の多様さです。
工程によって使用する漆の種類が異なり、地方によって呼び方が異なることもあるため混乱する人は多いのではないでしょうか。
今回は、本漆金継ぎで使用する漆の種類と用途を詳しく解説します。
本漆金継ぎの基本的な作業の流れ
具体的な漆の種類を紹介する前に、本漆金継ぎの作業工程を確認してみましょう。
本漆金継ぎの各工程を非常に簡易的に整理すると、次のとおりです。
- 破片やヒビ・欠けの処理
- 破片の接着
- 欠けやヒビ・穴の充填(必要に応じて)
- 接着した部分の下地処理と中塗り
- 金粉や銀粉などを撒く(必要に応じて)
では、以上を頭の片隅に置いた状態で、漆の種類をみてみましょう。
本漆金継ぎで使用する漆の種類
漆は無数に種類があり、さらに地方によって呼び方が異なるケースもあります。
ここでは、本漆金継ぎで使用する基本的な漆の種類をご紹介します。
漆芸で使用する漆は、このほかにもさまざまな種類がありますので、興味があれば調べてみてください。
生漆(きうるし)
生漆は、漆の木から採取した樹液から不純物を取り除いたものです。
本漆金継ぎで使用する漆はすべて生漆をベースとして作られます。
また生漆単体でも、ヒビや割れの断面に塗り、漆の食いつきを良くする「素地固め」という作業に使用します。
おもに国産と中国産のものが流通していますが、国産は希少性が高いため高額です。
透き漆(すきうるし)
後述の絵漆や黒呂色漆を作る材料となる漆です。
生漆に熱を加えて水分を飛ばしながらかくはんし、精製して作ります。
生漆と比べると水分が少ない分粘度が高く、仕上げをつるりと滑らかにしたいときや色漆を作って仕上げたいときに重宝します。
麦漆(むぎうるし)
割れた断面の接着剤として使用する漆です。
小麦粉と水と漆を混ぜ、小麦粉のグルテンで粘りの出た接着剤を作り、接合面の強度を確保します。
錆漆(さびうるし)
浅い欠けの埋めや、ヒビに充填するときに使用します。
漆に水と砥の粉(砥石に使われる岩石の粉末)を混ぜてペースト状にしたものです。
職人によっては地の粉(珪藻土を加工した粉末)を加えて強度を増すこともあります。
刻苧漆(こくそうるし)
欠けが深いときや穴が開いているとき、パーツを紛失しているようなケースは、錆漆では対応できません。
こうしたときに使われるのが刻苧漆です。
刻苧漆の作り方は大きく分けて二つのパターンがあります。
- 小麦粉で作った麦漆に木粉を混ぜる
- 上新粉と水と漆で作った糊漆に地の粉と木粉、刻苧綿を混ぜる
そのほか、人によっては練ったご飯で作った糊をベースにすることもあるようです。
黒呂色漆(くろろいろうるし)
前述の透き漆に鉄を混ぜて反応させ、黒くしたものです。
錆漆で作った下地に重ね塗り(中塗り)して、表面を滑らかにするために使用します。
漆器作りでは仕上げに使用されており、塗りの美しさが外観を大きく左右します。
絵漆(えうるし)・弁柄漆(べんがらうるし)
黒呂色漆による中塗りが終わったあと、金粉や銀粉を撒く前に塗る漆です。
透き漆に顔料を混ぜて作ります。
蒔絵でも同じものが使用されており、絵漆を塗った上から粉を撒き、模様を浮かび上がらせています。
金継ぎでは黒呂色漆や弁柄粉(色粉として使える酸化鉄の粉末)を混ぜた赤色の漆を粉撒きの前に使うことが多いです。
そのほかにも、異なる色の顔料を混ぜればさまざまな色の絵漆を作ることが可能です。
何色の絵漆を使うかは職人によっても異なりますし、仕上げに撒く金属粉が映える色に都度変更することもあります。
ガラス用漆
通常の漆に少量の合成樹脂をブレンドし、ガラスに食いつきやすくした漆です。
商品にもよりますが、生漆と同じように使えます。
天然漆はガラスにうまく食いつかず、せっかく金継ぎしてもまた破損したり剥がれたりすることがあります。
そのため、ガラス用に調整された漆が作られました。
ワイングラスなどガラス製品のほか、陶磁器の釉薬の面に塗るためにも使われます。
番外編:新うるし・合成うるし
本漆金継ぎに使用する材料ではありませんが、番外編として合成うるしについても触れておきます。
合成うるしは、簡易金継ぎで使用される「漆に似せて作った人工塗料」です。
新うるしはそのうちの一商品で、比較的知名度が高く多くのワークショップで使用されています。
合成「漆」と名が付いてはいますが、基本的に漆とは性質の異なる別物です。
多くの合成うるしが、食器に使用するための安全性が確立されておらず、使用後の器は用途が限定されます。
ただし、本漆とくらべてかぶれにくく、乾くのも早いため金継ぎ体験などでは重宝されている商品です。
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生漆から金継ぎ用の漆を自分で作ることはできる?
自作するものと、自作も購入もできるものがあります。
今回紹介した金継ぎ用漆のなかで、以下のものは自作が前提です。
- 麦漆
- 刻苧漆
- 錆漆
こちらは材料を揃えて使用前に自分で作成します。
基本的には使用する都度作ることが推奨されます。
一応冷蔵庫でも保管できますが、長くても一週間程度(錆漆は2日程度)しか日持ちしません。
一方、以下は自作・購入どちらも可能です。
- 透き漆
- 黒呂色漆
- 弁柄漆(絵漆)
透き漆は、自宅で生漆をかくはんし水分を飛ばせば簡易的に作成できます。
そこに金継ぎ用の黒粉(鉄粉)を混ぜたものが黒呂色漆、弁柄粉を混ぜたものが弁柄漆です。
ただし、自宅で簡易的に精製した透き漆は、プロが精製したものと比べて品質が安定せず、塗りにくくなる場合があります。
クオリティを追求したい人や、失敗したくない人は漆メーカーのものを購入することをおすすめします。
本漆金継ぎの材料はどこで購入できる?
本漆金継ぎの材料は、ホームセンターなどではあまり販売していません。
比較的購入しやすい場所として以下が挙げられます。
漆芸材料の販売店
金継ぎや蒔絵などに使用する漆芸材料を個人向けに販売している店があります。
初心者でもプロに相談しながら材料を選べるためおすすめです。
ただし、絶対数が少なく訪問できる距離に店がないという人も多いでしょう。
インターネット通販
インターネット通販でも、本漆金継ぎの材料を販売しています。
Amazonや楽天でも見かけるほか、漆芸材料のメーカーの通販サイトを利用することもおすすめです。
ハンズ
ハンズでも、店舗によっては本漆金継ぎの材料を取り扱っています。
店舗でも購入できるほか、ハンズの通販サイトから取り寄せることも可能です。
教室で買う
教室で本漆金継ぎを習っている人や、これから始めたい人は、教室で材料を購入するのがもっとも簡単かもしれません。
教室で使用しているものと同じ商品や道具で金継ぎができるため、入門したての人でも材料選びで混乱しにくいのではないでしょうか。
WEBサイトを開設している教室であれば、生徒以外の人も対象に通販を行っていることもあります。
種類別の役目と使い方を覚えよう
本漆金継ぎで使用する漆は種類が多いため、始めたばかりの人は混乱しやすいポイントです。
どの工程でどの漆を使うのか、作業の手順とともに覚えていくことが大切です。
まずは実際に手を動かしながら、必要に応じてメモや教本をチェックしつつ金継ぎに挑戦してみましょう。
最初は分からなくても、作業をすすめるうちに自然と覚えられるようになりますよ。